インファーネスひみつきち

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呪われたポリュネイスと神秘主義者の物語

場面

テバイを離れ、一人荒野で生きるポリュネイス。彼はすでに威厳ある人の暮らしを捨て、汚れた一族の呪いを引き受け、目についたものを手当たりしだいに食っていた。そこへ神秘主義者が現れてポリュネイスの有様に惚れ込む。

 

ポリュネイス

俺は腹が減っている。パンの味などもう忘れた。そもそも味とは何だったか。腹を満たすことこそが俺の喜び。大地は尽きることのないごちそうだ。葦は別腹さ。

 

ポリュネイスは犬のように大地を食らい、時折葦をつまむ。

そこへ神秘主義者が大声で歌いながら現れる

 

神秘主義

おお、回る回る。至高のあなたを見習って。ああ、回れ回れ。至高のあなたに従うならば。

 

ポリュネイス

ああ、遠い記憶が蘇る。俺がまだ人だった頃。パンの味を知っていた頃。呪われた父と母が俺に語った祝福の言葉。呪いが放たれる前の翼ある言葉。

 

神秘主義

おお、回る回る。至高のあなたを見習って。ああ、回れ回れ。至高のあなたに従うならば。

 

ポリュネイス

おい、お前はなぜ回る。俺はこんなにも腹が減っているのに。お前はなぜ従う。俺はこんなにも呪われているのに。

 

神秘主義

申し上げたとおりです。至高のあなたを見習って、私は回るのです。

申し上げたとおりです。至高のあなたを見習って、私は従うのです。

 

ポリュネイス

おい、たしかに俺は呪われた身、だがかつては俺も人間だった。そのように粗末に扱わないでほしい。俺にわかるように教えてほしい。

そなたはなぜ回る。なぜ従うのだ。至高のものとはなにものか。私の呪いを解けるのか。

 

神秘主義

申し上げましょう。至高のものとはあなたにほかなりません。それ故あなたに従いまわるのです。あなたの呪いは神秘の証。神秘の実在をあなたが示している。故に私はあなたに従うのです。呪いが力を発揮すればするほど、あなたが狂えば狂うほど、私は神秘へ近づきます。あなたの呪いは私の希望。どうか狂ってください。

 

ポリュネイス

おい人間。お前は俺が示した4つの問のうち2つの問には十分に答えてくれた。だが残りの2つの答えを俺はまだ聞いていない。俺は呪われた身。狂ってお前を殺す前に問いに答えてここを立ち去れ。これは慈悲だ。なぜなら俺はかつて人間だったから。

 

神秘主義

たしかにかつては人間だったのでしょう。しかし今、あなたは呪われた身。あなたの慈悲は呪いの言葉だ。一族の罪に呪われよ。狂え。

 

ポリュネイス

よろしい、俺は呪われた身。母は自らの汚らわしさに耐えかね死んだ。父は呪いを全うせずに死んだ。子が遺産を引き継ぐならば、俺は呪いを引き継ごう。せいぜい狂ってやるさ。

俺は腹が減っている。大地はごちそう。葦は別腹さ。だが偏食はいけない。動くものは久々だ。逃げなくていいのかい。俺は狂人だぜ。

 

神秘主義

おお、回る回る。至高のあなたを見習って。ああ、回れ回れ。至高のあなたに従うならば。

狂人め、呪われよ。狂え。お前の呪いは俺の希望。お前が狂えば狂うほど、俺は神秘に近づく。

狂え狂え、呪われよ。お前の呪いを見習って、ああ、至高のあなたに従います。

 

 

 

神秘主義者は食われた。至高のあなたに従って足だけが逃げていく。ポリュネイスの呪いは一層深まり、彼は久々の動くものを堪能した。夜が彼を覆う頃、足は獣に食われていた。